[壮月一八]
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2010.05.23(Sun)


 まるで雪のようだと思った。五月も終わりに近づき、季節はずれも甚だしい。それでもなお、雪のようだと思った。

 その木が桜なのか何なのか、私は知らない。桜にしては、花びらが硬い。けれど雪のように花を散らす木を、桜以外に私は知らない。いや、そんなことはどうでも良いのだ。ここを通ったのは、この花が目的ではない。

 白い道を歩く。さらさらと花が落ちていく音と、それを踏みしめる私の足音だけがあった。天気はすこぶる良い。気付けばもう初夏なのだ。私も忘れていたのだと、少し笑った。木漏れ日の光線は、存外に強い。

 待て、という声が聞こえた気がした。

 私は止まらない。空耳だと思うことにする。

 待ってくれ、という声がもう一度聞こえた気がした。

 この静けさを破るように、私以外の足音が駆けて来る。私はただ真っ直ぐ前を向いた。白い花びらは未だ降り続いている。

 ごめん、と背中から声をかけられた。黙っていると、荒い息を整えるようにしてもう一度ごめん、と続いた。

 そんな言葉が欲しかったわけではない。大人気ないことをしているのは自覚している。こういう逃げの姿勢を非難するのは、私の役目だったはずだ。いつの間にか立場が逆転している。

 すまなかった。声は次第に勢いをなくしていた。すまないのは、私のほうではないかとすら思えてくる。それでも私は振り返らなかった。空から白い花びらがひらひらと舞い降りてくる様を見ていた。

 まだ、よろしく頼む。その言葉と共に、白い花びらが真紅に変わった。真紅のバラが目の前を覆いつくしていた。

 よろしく、頼む。ゆっくりと花が沈んで、見慣れた顔がそこに現われる。見事なまでの、情けない顔。頼りにされていて、亭主関白を気取っていて、堂々としているあの人とは思えないほどの情けない顔だった。

 まるでどこかの坊ちゃんみたい。そう思って、笑ってしまったのだった。怪訝そうにあの人が私を見た。理由などわからずとも許してあげるから心配することはない。私はひどく満足だった。

 だから私は花びらの中に飛び込んだ。年甲斐もなく、と誰かが笑うかもしれない。あの人も私のこんな行動を予想できずに、均衡を崩しながら思わず花束を手放した。放り投げられた赤い花束は、少しの間空に舞って、白い花びらの上にひらひらと赤を散らしながら白い道に落ちた。赤の存在感は、どれだけ白があったとしても、むしろ白があればあるほど、強かった。
 
 忘れていたのは当たり前すぎたからだ。それが幸せだと誰かが教えてくれたせいだ。だから私はこの光景を忘れない。次に赤い花吹雪が吹いたら、私は白い花束を買おうと思う。


「赤い花吹雪 」
title from のんびり+
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